Inroduction to Allan Variance 1 アラン分散入門 #1

周波数領域(frequency domain)での周波数揺らぎの評価が位相雑音(Phase Noise)であるのに対し、時間領域(time domain)での評価法として、1981年に米国立標準技術研究所NISTのD.W.Allan氏が
提唱したのがアラン分散(Allan Variance)である。
Allan Variance and Its About Time book intro by David W. Allan     まだご存命であり、YouTubeで生の説明が聞けます
 

 

 
      Freuency and Time Interval Analyzer hp 5372A

 上式より、τ時間毎サンプリングでの周波数のゆらぎ変動量Δyの二乗平均を2で割った値がアラン分散であり、
この値をルートしたのが Allan Deviationと定義される。
つまりσy(τ)は、τ時間当たりのゆらぎ周波数変動量のrms値(root mean square )、周波数ゆらぎの実効値を意味している。 筆者がAllan Deviationという言葉を知ったのはごく最近ことで、更に最近ではADEVとも表記されるらしい。 
筆者が古いのか、なんとも浦島太郎気分である (^^;;
σy(τ)をルートアラン分散とかアラン分散ルート値とか、単にアラン分散と呼んでいた。 また学術的には2標本標準偏差と呼び、単に周波数安定度と称する場合もある。 
  筆者が アラン分散に取り組んだのは、平成になって間もない頃と記憶しているが、起案が思いがけずスンナリ通り、会社にhp 5372Aを買って貰ってからである。 当時で約456万円、バブルの頃、金余まりの時代でした。

◆参考文献 References Links
1)Properties of Signal Sources and Measurement Methods  -
 D.A. Howe, D.W. Allan, J.A. Barnes, 35th FCS 1981
2)
Time and Frequency Characterization, Estimation, and Prediction of Precision Clocks and Oscillators,  D.W. Allan
3)
Simplify Frequency Stability Measurements with Built-in Allan Variance Analysis 
        -
Time Interval Analyzer hp 5372A Application Note AN 358-12  一番勉強したのがコレ
4)
周波数安定度の尺度 吉村和幸 電波研究所季報  Vol.29 No.149 1983
5)D.W. Allan氏のAllan'sTime     
http://www.allanstime.com/AllanVariance/ 
6)WikipediaでのAllan Variance定義     
https://en.wikipedia.org/wiki/Allan_variance  

  

   周波数測定結果からのAllan Deviation σy(τ )算出式

5372Aではこんな感じでσy(τ)値を直接表示します。
       画像clickで拡大表示


hp 53131A 10MHz基準回路のCTS TO-5形10MHzCrystal を取り出し、の右図の発振回路に組み、短期安定度を測定する。 
10MHz発振回路出力のτ=1sec, 測定数N=100条件でのσy計測例 Allan Deviation σy(1sec)=4.91E-11   



サンプリング平均τ時間に対する
σy(τ)を算出plotした特性を周波数短期安定度(Short Time Stability)と呼ぶ。


 電子計測に於いて、周波数カウンタの計測gate時間は通常0.1sec〜10secで設定するのが通常であるのを踏まえると、
 このCTS 10MHzクリスタル基準の周波数測定では、繰り返し測定のばらつきが1E-10以下と精度と見込める。

 
 測定検証したColpitts形10MHz発振回路

  
左の測定結果について、若干の補足解説を下に箇条書きする。

*ここでの周波数計測は5372Aではなく、周波数カウンタhp 53132Aに
 直接入力して測定をしている。 測定系の話は別途後述する。<br>*τ時間=Counter測定fegate時間に設定し、f[i] i=0 to 100回測定する。
 左の結果では、1sec gate時間設定で、0.01mHz=10uHz の分解能で
 周波数測定を行っていることに注目して頂きたい。
 
*計測時間はτ時間xNでほぼ決まり、τ=1秒では107秒を要している。
 水晶は温度特性を持つので、計測中は極力温度が一定、温度外乱無き
 ことが無論望まれる。 
* fs = f[0]   fe= f[i]  であり、 黒線のbf[i]はfsからの周波数偏移であり、
 左の結果では107秒間で-12.85MHzのf変化の様子をplotしている。
  赤線のdf[i]は、τ時間毎のf周波数偏移量をplotしたものであり
 このdf[i]について二乗平均を取った値がAllan分散値となる。
 左の結果では1秒毎のf偏移量は概ね0.6mHz程度で、
 計算で得られた σy(1sec)=4.91E-11 の結果は、予想以上のj上出来
 で、hpが10MHz基準に採用したCTS 10MHz水晶はなかなか優秀!

 τ時間を変えた時の測定結果 画像clickして拡大表示

    τ=0.01sec時           τ=5sec時
  


〜 閑話休題その1 〜
Deviationというは任意の基準値に対する偏差値、変動量≡偏移値の両方に使われ、前者は精度に、後者は安定度に適用される。 ここでは周波数安定度/f偏移量に絞った議論を行うことにすることとし、
上に引き続き、最も取っ付き易い10MHzでの安定度を考えてみる。 10MHzは電子計測TimeBase基準でもあり、Audioでの
Master Clockとしても使われ、検討の恩恵が多い。
 

10MHzを基準周波数とした時の
 偏差/偏移 ↔ 精度/安定度 
換算表                                                                                    画像clickして拡大表     
         
 
% : parts per cent  百分率      ppm : parts per million 百万分率   ppb : parts per billion 十億分率   ppt : parts per triliion 一兆分率                     各種信号源のTime Domain Stability
指数表記は安定度の偏移量としてよくも散られるのに対し、分率表記は規格精度に対する偏差単位としてよく用いられる。 
さてアラン分散の話に戻るとして、右上の各種信号源のTime Domain Stabilityをクリックして見て欲しい。主な基準周波数源としては水晶(Quartz)と原子発振器(Rubidium, Cesium, 水素メーザー)が挙げられる。

 この並びの順に周波数安定度が向上するのであるが、適応すべき平均時間τがLong-termとなり、また、形状も順に重厚長大化する。如何なるτ時間であっても最も高い安定度を示すのは水素メーザー
1E-15クラスの安定度が得られ、これは天文台等に鎮座し、お国の標準時計として活躍している。ルビジジウム、セシウム原子時計は衛星に搭載され、GPS(Global Posisioning System) の基準周波数源として
活躍している。昨今、GPSは殆んどのスマホ・携帯電話や車に使われているが、元々は1980年いは代に米国陸軍落下傘部隊の為に作られた位置計測システムが始まりなのである。
 
 一方、サンプリング平均時間τが10秒以下のShort-termになると、軽薄短小・安価な水晶の安定度が最も良かったりする。 尤も水晶にもピンキリがあるのであるが... グラフを見て分かる通り、τが100秒を
超えた長時間になるに従い安定度は劣化する。この原因は、水晶の発振にRandom Walk成分が含まれるが故であり、発振周波数に経年変化を持つのである。一方、Rb,Cs原子発振はRandom Walk成分を含まないので
周波数に経年変化が殆ん無いどないのである。故に、短期に多少のゆらぎが在っても長期経年的に安定なので標準時計等に使われるのである。



 上述のグラフから見ての通り、Quartz水晶では5E-13前後が安定化の限度になっている。この-13乗クラスのσyを評価するには、上の換算表から
判る通り、1uHz以下の分解能で周波数計測を行うことが必要になる。 その対応策として、Down Conversonの手法を取るのであるが、
ここでは精密且つ最も簡便な手法として、ヘテロダイン法を紹介する。 (ビート法とも呼ばれる)

Heterodyne Method




超高安定10MHzAllan Deviation測定例

Quartz水晶としては最高峰の-13乗安定度実力を持つ10MHz 基準間でのAllan Deviation計測評価例を以下に紹介する

 
  
σy(1.0sec)=4.46-13 です。凄いですね 周波数ドリフトが約106間で±20uHz以内に軽く収まっている。
1秒毎のF最大偏移量を99.7%満足する3σy値と考えると、最大で14.4uHzとなり、定常のF偏移量は5uHz/sec前後なのです。

 

上のグラフ結果は、10811-60211とOCXO-110間でのfbeat = fo-fRefをから計測し算出した相対評価のσyなのです。
共に-13乗高安定実力伯仲している。 表題通りのOCXO-110の特性と示していると果たして云えるだろうか?  答えは否なのです。
 
実は各τ毎に、ドリフトの大きい方、τ毎に特性の悪い方のσyが結果に反映された特性グラフなのであり、両発振器は共に、
上σy(τ)算出値以下であり、個々の特性は、上グラフよりも良い特性と見て良いのである。 この議論の詳細は下の閑話休題その2 を参照されたい。

 DownConversion
微小周波数実効偏移ΔFrms(τ)/F=σy(τ)の定義から、
σy(τ)測定分解能はFカウンタの時間分解能と等価である。 
5372Aや53132Aの1sec分解能は150ps であるので、
|ΔF/F|=|ΔT/T|= 150E-12 s/1s = 1.5E-10
から、τ=1sでの5372Aや53132A単体測定ではσy測定限界が
1.5E-10である。 更に高安定なσy(τ)計測を行う場合は、
Mixer IF Amp.を用いて、周波数Down Conversionを行い
 
  fbeat = fo-
fRef   ビート周波数
取り出し、
周波数分解能を高めたかたちでの計測を行う。
 

 例えばfo=10MHz周波数安定度評価に於いて
基準発振器f
Ref=9.999900MHzとしてfbeat = 100Hzを取り
出しF計測した場合、DownConversion率は1E7/1E2=1E5
となり、この場合のカウンタ分解能ノイズフロアは
1.E-10/1E5 = 1E-15 at τ=1s となり、1E-15までの
分解能計測が可能と
なる。

計測にはどちらも10MHz基準源とし使っている下記2デバイスを使用
 * hp 10811-60211 10MHz
    10MHz+23.668Hzに F Offset調整(内部トリマ最小
 * KSS OCXO-110 5MHz x2逓倍(Doubler)  
         10MHz-25.1731HzにF Offset調整(内部トリマ最大

                画像clickして拡大表示
 
上述の2信号源の10MHzをここでは、Mixer IF Amp. hp 10830Aに
入力し、IF出力である2信号間のBeat周波数
 fbeat = -25.173-23.668 |  ≒ 48.841Hz  IFOUT波形
を周波数カウンタ hp 53132Aに読み込みさせている。
ここでは、10811-60211をREF入力としているが、計測に於いては
どちらをREFとしても良く、全く等価なのである。
ここで注目すべきは、小数点以下8桁=0.01uHz迄の高分解能でf
beat計測評価が可能になっていることなのである。精度は別ですが....
この辺の計測技術の詳細は、別途後述紹介することとする。


  τ時間を変えた時の測定結果 画像 click拡大表示
        τ=0.1sec時           τ=2sec時
    

実の処、KSS OCXO-110はバランス良く-13乗のσyなのであるのに対し、hp 10811-60211は、逆にτ時間が10sec以上では-14乗に近く頗る優秀なのであるが、τ時間が0.2sec以下では-13乗に至らないことが判明している。 

 〜 閑話休題   その2 〜  
       

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